帯状回の神経科学(1)
=心の病気に関連する脳の臓器
最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明されつつある。自己洞察瞑想療法は、それらの研究成果を考慮して、こういう病気の治療を行なう。
人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(上)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
- (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
- (B)前部帯状回背側部=認知領域
- (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
- (D)脳梁膨大後方部=記憶領域
図(下)にみるように、(A)の前部帯状回吻腹側部(情動領域)は、側頭葉内側部(海馬を中心とした)、前頭前野、扁桃、視床などと密接な連絡がある。
パニック障害と帯状回
パニック障害(PD)には、この前部帯状回(ACC)と脳梁膨大後方部の機能異常があるのではないかと研究が続いている。
「PAに対する予期不安については、興味深い研究がある。健常人への電撃刺激や不安惹起物質であるCCK-4投与前に生じる不安反応(予期不安)はACCの血流量を増加させ、更に健常人と比較してPD患者では、CCK-4類似のpentagastrin投与に対する予期不安によるACCの血流増加がより大きかった。ACCの特に腹側部は、うつ病などの情動障害でも過剰に活性化している場合があり、上記の所見は予期不安に特異的であるとはいえないが、ACCが予期不安の発現、あるいは過剰な予期不安に対する制御に関与している可能性を示唆する。
」(1)
「強い予期不安は、過剰で不合理な認知過程を含む場合がある。PAを何回か経験すると、その後患者は偶発的で些細な身体兆候、例えば労作後の軽い動悸をも重篤な身体異常を示唆する警告信号であると認知するようになる。さらにエピソード記憶が活性化されると、以前に生じたPAに伴う交換神経興奮に伴う身体感覚が、内因性の条件刺激として作用していると理論化されるが、条件付け以外に、破局的認知の介在が想定される。自律神経反応と情動発現の中核構造である脳幹および大脳辺縁系と、破局的認知を支える大脳新皮質を結びつけるインターフェイスとして帯状回は重要と考えられる。」(2)
さらに、脅威刺激に対して、PD患者は、脳梁膨大後方部(RSC、記憶領域)が健常者よりも賦活すると報告している。(3)
すなわち、次の連鎖(連合)ができていて、すぐに、この回路が興奮しやすくなっている。
些細な身体兆候(動悸、疲労感、はきけ、など、本当は発作ではないのだが)
→重篤な身体異常を示唆する警告信号である(発作の前触れ)と認知
→以前の発作を思い出す
→強い感情(不安、恐怖)が再現
→破局的認知
→交換神経が興奮して、身体感覚が発現
→これが、パニック発作を誘発
自己洞察瞑想療法では、これに対応して、この連合を断ち切る訓練を行なう。日常生活の多くの時間において、感覚、思考、感情、身体症状などのプロセスの流れを理解して、次のプロセスに移らない訓練を行なう。また、感覚そのものに、とどまり、思考・判断に移らないように「抑制」を行なう訓練を重ねる。呼吸法を媒介として、訓練する。毎日、このような訓練を重ねて、全般的に、不安レベルが下がった心理状態にすることを目標とする。こうして、予期不安を起こすことが少なくなって、発作の間隔が長くなる。さらに、予期不安が少なくなって、発作が起こらなくなる。こうして、パニック障害を改善させようとする心理療法として、自己洞察瞑想療法が用いられる。
(1)Clinical Neuroscience 2005 Vol.23 No.11 「帯状回ーその多彩な機能」Page 1295。北村秀明ほか(新潟大学)「パニック障害と帯状回」
(2)同上、1296頁。
(3)同上、1296-7頁。